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「赤」の持つ意味
Красный цвет как символ
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以前、ロシアの作家アレクサンドル・グリンの小説『紅い帆』について書きましたが、
今回はそれに関連して、赤という色の意味についてです。ロシアの文化の中で、赤い色はどんな意味を持っているのでしょう。
ロシアで赤というと、つい共産主義やソビエト連邦を連想してしまいます。
ところが、実はそれは一面的な見方に過ぎません。
例えばロシアの民族衣装や伝統工芸品では、好んで赤が使われます。
赤とは、燃える炎の色であり、太陽やエネルギー、生命力の象徴でもあります。
モスクワの中心部には「赤の広場」と呼ばれる場所があります。この名前はどこから来たのかというと、別に赤かったからではありません。
確かに写真などを見ると、壁などが赤いレンガから出来ていて、文字通り「赤い」(ややこげ茶色)のですが、実はこれが名前の由来ではありません。
※そもそも昔はモスクワのお城は白い石でできていたりして、むしろ街が白かったらしいです。今でもモスクワのことを「白い都」と美称で呼ぶことがあるのはそのためです。
実は古いロシア語では、「赤い」という言葉は「美しい」という意味を持っていました。
そのため広場の名前も、本来は「美しい広場」という意味だったのです。
「美しい」という言葉と「赤」が同じ語源を持っているというところを見ても、赤という色が他の色にくらべて特別な意味を持っていると言えます。
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では、『紅い帆』という作品の中で、赤というよりは深紅というべき、鮮やかな赤色は、どのような意味を持っているのでしょう。
昔から人気の作家で、ソビエト時代から子供向けの作品として読まれています。
この本が評価された要因の一つに、赤い帆船というモチーフが共産主義をイメージさせるというのもあったかもしれません。
(他にも、明るく前向きな内容、作品の中でブルジョワが悪役を演じている、なども考えられます)。
しかし、もともと小説の内容自体に、共産主義的なメッセージは無かったといえます。
そもそもロシア語のタイトルを見ても、「共産主義」という意味で使われる「クラースヌイ」という単語はなく、かわりに「アールイ」という、古風な響きを持つ別の言葉を使っています。
「アールイ」はより正確には、明るく鮮やかな赤色を指しています。
本来、船に張る帆と言えば白です。それが赤くなったというだけで
物語に出てくる燃えるような鮮やかな帆は、社会主義革命というよりは、むしろロマンやファンタジー、夢の象徴であると言えます。
(市川透夫)