ロシアではもともと、クワス(黒パンからつくるビールのようなもの)やモルス(ベリーの実のジュース)などが飲まれていました。
ロシアに初めてお茶が伝わるのは1638年、モンゴルのハーンがロマノフ朝初代のミハイル・ロマノフに献呈したときで、それ以後は中国から輸出されるようになりました。そして18世紀にロシアの様々な階層でお茶を飲む習慣が広がりました。やがてロシアでは「サモワール」と言われる湯沸かし器が使われるようになりました。サモワールには大きな卓上版のほかに、旅行用の小さなものもあります。
一方コーヒーは、改革で知られるピョートル1世によってもたらされました。1740年には初めてのコーヒーショップがペテルブルグに登場します。詩人プーシキンの代表作「エヴゲーニー・オネーギン」では、オネーギンがコーヒーを飲むシーンが登場します。
モスクワでお茶とコーヒー、そしてそのお供のお菓子を買える有名なお店といえば、ミャスニツカヤ通りにある「チャイ・コーフェ」です。お店の中に入った瞬間にカフェインの魅力的なにおいとチョコレートの甘い香りがただよってきて酔いそうになるほどです。
ここでなくても、スーパーなどで普通のお茶、さまざまなフレーバーのついたハーブティー、が手に入るほか、お菓子(ここではコンフェーティといって、飴やチョコーレートのボンボンを丸く包んだもの。)は大量に棚に入っているのを掴んで量り売りしているところもあります。
ロシアではとりわけ鉄道などでお目にかかるのが、透明のコップと、それをはめて使う「パトスタカーンチク」と呼ばれる取っ手付きのコップ入れです。透明のコップをそのまま触るには暑いので、ケースに入れて使うわけです。
またロシアでは風邪をひいたときに一番言われているのが、ハチミツを入れた紅茶です。ハチミツに関しては、ロシアでは定期的にハチミツ市が開催され、モスクワの公園などでも見かけます。各地のいろんな花から採取したハチミツを試食しながら選ぶことができます。
そして話はハチミツへ
ロシア語ではクマのことをメドヴェーヂというのですが、これはメド(ハチミツ)とヴェーヂ(食べる者)から来た語で、おそらく本来はクマを直接さす言葉があったのですが、森に住むロシア人にとってクマは天敵、直接その名を口にするのは不吉なこととされたのか、このような遠回しの言い方が定着しました。
なお、ウクライナ語でクマという場合、ヴとメの音が入れ替わってヴェドメーチになっています。これはいわゆるメタテーゼ(音位転換)と呼ばれる現象で、日本語で言うなら「あきばはら」が「あきはばら」になったという例があります。
ハチミツといえば、ハチミツを使ったお酒「メダヴーハ」は定番のお酒で、ウォッカより歴史が深いです。アルコール度数は3~5パーセントとあまり強くなく、甘いビールのような風味なのであまり強くない人でも飲めます。
ロシアの伝承おとぎ話の世界では、物語の締めくくりの定型文としてこのようなものがあります。「こうして無事王子様とお姫様魔は結婚したとさ。そのお祝いは飲めや歌えの大騒ぎで、私もそこに参ってハチミミツ酒を飲もうとしたが、ヒゲをつたって流れてしまい、一口も入らなかった」ここにもハチミツ酒が出てくるんですね。これは、おとぎ話の語りべが、たくさん話して喉がかわいたから飲むものをくれ、という意味があるそうです。
最後に、ロシアにはハチミツを使ったケーキ、メダヴィークがあります。ハチミツをつかったスポンジとクリームが層になっていて、スーパーにも売っています。
メダヴィークと紅茶 |
(市川)
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