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ズメーイ・ゴルィーニチ
Змей Горыныч
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ロシアのおとぎ話に登場する最も恐ろしいかもしれない怪物が、ズメーイ・ゴルィーニチ(Змей Горыныч)です。「蛇」「竜」「ドラゴン」などいろいろな訳がありますが、今回はロシア語の単語をとって、簡単に「ズメーイ」と呼ぶことにします。
その名前が、現代ロシア語のヘビ(ズメヤー)の元になっていることからも分かるように、蛇の体がベースなのですが、そこに手足と羽が生えていて、頭は三つ。
こんなのが火を吹いてくるわけで、それだけでも恐ろしいのですが、体が蛇であることを考えると気持ち悪くもあります。
形としては日本の映画に出てくるキングギドラとそっくりなので、さしづめロシアのキングギドラといったところ。ロシア人から見ればキングギドラが日本のズメーイですが。しかもズメーイの方が歴史が古い。
ズメーイ・ゴルイーニチはしばしば、おとぎ話の中では、ヒロインをさらう悪役として出てきます。一体、お姫様をさらって何にしたいかというと、たいていは美しいお姫様をお嫁にとるか、女性の柔らかい肉を食べてしまおうという目的です。どちらにせよ、こんな気持ち悪い生き物の妻になったり食べられたりするのですから、不愉快極まりない。
ちなみにお姫様を連れ去るだけあり頭が良く、言葉を喋ります。ガオー!だけではないわけです。
というわけで王子様も負けていられず、お姫様を救いだすため、ズメーイをやっつけに旅立ちます。
さて王子様も、このズメーイを倒すために大変な奮闘を見せます。王子様がズメーイをやっつける昔話は複数のバリエーションがありますが、ときに一匹倒しただけでは終わらないケースがあります。例えば、最初に頭が三つのズメーイをやっつけたかと思うと、今度は頭が6本あるズメーイが現れ、それをやっとやっつけたかと思いきや、次には頭が9本あるズメーイが出てきたり、とここまでくると思わず笑ってしまいますが、一匹であれ複数匹であれ、晴れてズメーイをやっつければ、王子様はお姫様を救出し、めでたく二人は結婚するというハッピーエンドが待っています。
こうして、王子様がお姫様を助けるという昔話の大筋を見てみると、テレビゲームのドラゴンクエストをはじめ、様々な冒険物語と一致します。現在でも、さまざまな冒険物語がありますが、大本をたどっていくと、どこかの国の昔話に行きつくわけです。やはり人類の創作物語は、フォークロアに起源があるのか、などと考えさせられます。
ちなみに頭が複数あるヘビと言えば、思いつく限りではこのズメーイやキングギドラの他に、ギリシャ神話のメデューサや、日本神話のヤマタノオロチがあります。こういう生き物を見るたびに思うのは、もし複数ある頭が、たがいにケンカを始めたらどうなるのかなということです。
(文:市川)
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