2016年4月3日日曜日

ロシアの桜

『桜の園』に出てくる桜はどんな花?
Вишнёвый сад


『桜の園』というお芝居があります。
もともとロシアのチェーホフという作家が作った作品ですが、日本ではよく上演されます。
チェーホフの作品では、ほかに『三人姉妹』も有名です。

『桜の園』というのは、ある貴族の奥さんの話です。奥さんは田舎にお屋敷を持っていて、その庭は桜の木が並んでいます。
しかし、奥さんはだんだんお金が無くなっていって、昔のような豊かな暮らしができなくなりました。
この花咲くきれいなお屋敷も捨てなければならなくなります。

ところで、ここで出てくる「桜」。桜といえば日本の花で、寒いロシアのイメージとはあまり結びつきません。

ここで、一つの課題が生じます。「桜の園」の「桜」って、日本人のイメージするものとは違うんじゃないか?

そこで、日本語とロシア語の両方から比較・検討してみましょう。

日本人が4月にお花見するあの花は、正式には「ソメイヨシノ」といいます。学名はPrunus× yedonesisと言って、「yedo(江戸)」という言葉が入っている所からも、日本固有種ということが分かります。
なんでも、江戸時代に、園芸職人が人工交配して生み出した木のようで、自然発生したわけではないようです。しかしあとで植林が進み、今では日本でサクラといえば、まずこのソメイヨシノのことを指すようになりました。

一方、チェーホフの戯曲に出てくるのは、ロシア語で「ヴィーシニャ」というもの。
たいていの場合、「サクラ」という日本語が当てられますが、今回はそういった定訳は無視して、一からこの「ヴィーシニャ」という単語の訳について考えてみましょう。
ヴィーシニャの学名は、prunus。どうやら、サクラ属の植物の総称を言うようです。
つまりヴィーシニャとは、ヒカンザクラ、スミミザクラ、ヤマザクラ、ヒマラヤザクラなどなどを含めた「総称」です。その中には当然ソメイヨシノも含まれます。ソメイヨシノの学名はPrunus× yedonesisです。ここにもPrunusという言葉が入っているのは、ソメイヨシノがヴィーシニャの仲間の一つであるということを示しているのです。

しかし。
ヴィーシニャ=ソメイヨシノとは言えません。
これはあくまで、ヴィーシニャと呼ばれる植物の中に、ソメイヨシノが含まれているかもしれないというだけです。
ロシア人が「ヴィーシニャ」と言ったとき、もしかしたら、それがヤマザクラやヤエザクラのことを指しているかもしれないのです。

では、重要な問題に入ります。実際にチェーホフ自身が、何を念頭に置いて作品を書いたかです。
チェーホフがヴィーシニャという言葉の念頭に置いていたのは、一体どういう花でしょう。

少なくとも、作品の内容から言っても、それが灌木や茂みに咲く花ではなく、「木」であることは確かです。
ですが、やはりソメイヨシノは日本で江戸時代に人工交配から生まれた品種。
19世紀ロシアの、貴族の田舎の屋敷に、それがたくさん植えてあるとは考えられません。

そのため、チェーホフが想像していたのは、おそらくソメイヨシノよりも幹が細かったり、場合によってはサクランボの実を付けている、ヨーロッパ生育の品種なのではないでしょうか。
実際のところ、ロシアには「ヴィーシニャ」から作ったジャムもあるので、これが、サクランボやチェリーをはじめとする“実ザクラ”である可能性は十分あります。

この『桜の園』という戯曲、日本語では何度か翻訳されていて、本屋さんでも簡単に見つけられます。実は、その中には『さくらんぼ畑』というタイトルで訳されたものが一種類だけあります。
おそらく、日本とロシアで、サクラというものに対するイメージが違うことを考慮に入れて、このようなタイトルに翻訳したのかもしれません。

まとめると、「桜の園」というタイトルは誤訳ではないにしても、日本で定番のソメイヨシノとは違う種類の花だよ、となります。

では、チェーホフは日本のサクラのことを知らなかったのでしょうか?そういえば、チェーホフはいちど日本を訪れていたそうです。そのときに、サクラを見るチャンスはあったんでしょうか。これについてはもっと調べる必要があります。

* * *

そういえば有名な伝説で、アメリカ大統領のワシントンは、子供時代にお父さんの大事な桜の木を切ったという話があります。あの桜も、おそらく欧米に咲いている品種で、日本とは違うものだったのでしょう。

(文:市川透夫)

2016年4月2日土曜日

ペチカ

詩人・北原白秋の作詞した歌に「ペチカ」という曲があります。

雪の降る夜は楽しいペチカ
ペチカ燃えろよお話しましょ
昔昔よ燃えろよペチカ

このペチカというのは実はロシア語で、暖炉のこと。

* * *

ロシアは寒い国なので、家の中に暖炉があります。ロシアの民話などでもこのペチカは何度も出てきます。

この暖炉は大きく、上の平べったくなったところは横になって眠ることができます。暖炉の上にじかに寝るので大変あたたかいのです。
体の弱いおじいさんなどは、ここで休みをとります。

ロシアの民話『カワカマスの命令により』では、エメーリャという若者が出てきます。エメーリャはなまけもの。仕事はせずに、ペチカの上で寝てばかりいます。

アニメ「カワカマスの命令により」


* * *

ところで、ヨーロッパにチェコという国があります。このチェコで生まれた児童小説に、『黒猫ミケシュの冒険』という話があり、日本語でも読むことができます。

そこでは、農家の家のなかに暖炉があるのですが、ここでも暖炉の上で男の子が寝ているのです。暖炉を寝床として使用するのは、ロシアだけではないのかもしれません。

* * *

もう4月、ロシアでも冬は終わったそうです。5月になれば、サクランボの花が咲いてきれいになると思います。

(文:市川透夫)

2016年3月8日火曜日

ロシアの三月

***
3月8日 国際婦人の日
Международный женский день
***

ロシアでも日本でも、2月という一年で一番寒い時期を乗り越えると、少しずつ暖かくなって、春がやってきます。

日本では3月3日にひなまつり。
そして同じく3月には、年度末のごたごたがあります。入学式が4月始まりの国ならではです。

一方ロシアでは、3月8日に国際婦人の日、ないし国際女性デーというのがあります。

もちろんロシアの伝統的なお祭りではなく、女性の権利を訴えるための国際的な記念日です。日本ではこの日ほとんど何もやらないのですが、ロシアを始め旧社会主義の国では国民の祝日として、特にさかんにお祝いしています。
そういえば、ある時ブルガリア語の講座に参加したときも、ブルガリア人の先生がこの日について話していました。ヨーグルトで有名なこの国はかつては社会主義。ブルガリア人に、「祝日と言えば?」という質問をすると、クリスマスやお正月についでこの日を挙げる人が多いようです。

この日に、一体なにをどうするのかというと、
女性に感謝するとかで、男性が花をプレゼントします。

では、なんで社会主義の国ではこんなにお祝いするのか?それは、歴史と関係があるようです。
世界で初めての社会主義国家ソビエト連邦は、1917年のロシア革命によって誕生しました。
で、この年の3月には三月革命といわれる大きな動乱が起こったのですが、それはなんと国際女性の日でした。革命の契機は、女性の労働者が起こしたデモだったのです。

というわけで、ソ連ではこれは単に女性の権利を主張するだけでなく、革命記念日という意味も持っていました。

ところが、革命や平等や権利といった政治的な意味合いは次第に薄れていき、ソビエト時代の内からすでに、単に女性を大切にする記念日へと変わっていきました。

このようなわけで、国際女性デーが日本ではほとんど祝われませんが、ソビエトとロシアでは一年のなかでも重要な日となっています。

じゃあ男性の日はないのか、というと、あります。それは2月23日、祖国防衛者の日です。もともと軍隊に関係する日ですが、事実上は男性のための日になっています。

日本では3月3日が桃の節句で女の子の日、5月5日が端午の節句で男の子の日になっているのと対照的です。ちなみに日本にあるのはどちらも子供向けの日なので、子供から老人までお祝いされる女性の日とは違います。

ちなみに、ひな祭りと子供の日の中間にある4月4日を、オカマ・オナベの日として祝っている動きもごく一部でありますが、公式なもの・非公式なものを含めて、祝日というテーマでリサーチしてみると面白いかもしれません。

(文:市川)

2016年2月20日土曜日

バレンタイン

2月14日はバレンタインデー(День святого Валентина)です。
いまさら?っていう感じはしますが、個人的に毎日といっていいほどチョコレートを食べてる自分からすれば、いつバレンタインだろうと関係ない(?)です。

チョコレートは体にいいそうです。タレントの楠田恵理子さんは、毎日チョコレートを食べているおかげで何十年も便秘がないとのこと。

ストレスや、頭の疲労にも効果があります。あるスペイン語の通訳者の方は、チョコレートをいつも持ち歩いているとのこと。通訳という仕事では、2、3時間の作業でもかなり頭を使うため、それだけで板チョコ一枚がなくなってしまうそうです。

自分の記憶が正しければ、ロシア語通訳の故米原万理さんや、イタリア語通訳の田丸久美子さんも同じようなことを言っていた気がします。

さて、この日、日本人はチョコレートを贈りあいますが、ロシア人はどうするのか問い合わせたところ、

1)チョコレートではなくメッセージカードでもよい。
2)恋人や家族にプレゼントを渡す。女の子→男の子だけでなくその逆もある。

という話でした。おそらく他のヨーロッパの国でも同様と思われます。

ちなみにロシア語では、День святого Валентина(聖バレンチヌスの日)という言い方のほかにДень всех влюблённых(全ての恋人たちの日)という表現もあります。

いずれにせよ、カトリックではなくロシア正教を奉じるロシアでは、これは非公式のお祭りです。ロシア正教会はバレンタインデーには否定的な立場をとっています。しかし、欧米からの影響を免れることはできず、普通のロシア人は自由にプレゼントを交換しているようです。恋人がいない人が退屈そうにしているのも日本と同じです。

こちらは、私の近所にある百貨店でチョコレートのフェアをやっていたので、買ってきたものです。
チョコラーシカというブランドの「シーニイ」という箱です。ちなみにシーニイはロシア語で紺色のこと。
もう一つ、「ミールイ(可愛い)」というピンク色の箱もありました。


(文と写真:市川)

2016年1月23日土曜日

「五月の夜、または身を投げた女」(ゴーゴリ)


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「五月の夜、または身を投げた女」
Майская ночь, или утопленница
(『ディカニカ近郊夜話』)
原作:N・ゴーゴリ
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 前回、「生誕祭前夜」が、現在でも子供向けに劇場で上演されているという話をしました。

 もともと『ディカニカ近郊夜話』という短編集は、子供向けに書かれた話というわけではありません。しかしユーモラスで、かつファンタジーにあふれる作風のため、今までにも何度かアニメーションや絵本になっています。

 興味深い事実として、日本の児童書出版社も、戦後に「生誕祭前夜」をかつて世に出していました。昭和の本屋さんでは、この作品が児童書として置いてあったのでしょう。

 これは私個人的なテーマですが、児童向けの作品としてゴーゴリをとらえる、ということをもっとやってみたいと思います。

 実は私もかつて、同じ短編集「ディカニカ近郊夜話」の中から、「五月の夜、または身を投げた女」という作品を日本語に翻訳し、挿絵を付けるという試みをしました。去年の外語祭では、ヴァスネツォフやチャルーシンの名作絵本が並ぶ展示の中に、こっそりこれを入れて、来場者の方の感想を伺いました。(※販売する予定はありません。)

日本語版とロシア語版です。

字が多い大人向けの絵本です。

コサックたち。

ウクライナの村。

この「五月の夜」もとても面白い話です。

 同じくウクライナのコサック村が舞台です。
 季節は五月。空気が暖かく、澄んだ空にはきれいな月が浮かんでいます。
 そんな中で、コミカルなキャラクターたちがドタバタ劇を演じます。そのドタバタと並行して、身を投げて死んだ女をめぐる不思議な怪奇現象が起こります。この話は色々な要素が何重にも重なったとても奥が深い小説だと思います。

* * *

「五月の夜」は、ソ連時代に制作された映画が二種類あります。
Майская ночь (1940) фильм смотреть онлайн (1940年制作)
Майская ночь, или Утопленница (1952) фильм смотреть онлайн (1952年制作)

初めて見る時は 1952年版がおすすめです。

(文と画像:市川透夫)

2016年1月15日金曜日

「降誕祭前夜」(ゴーゴリ)

関連記事:『コサック村のクリスマス』


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「降誕祭前夜」
Ночь перед Рождеством
(『ディカニカ近郊夜話』)
原作:N・ゴーゴリ
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ロシアではクリスマスを1月7日にお祝いして、14日で冬休みが終わります。
日本では12月にクリスマスが終わると、すぐにお正月の準備をして、片づけて、早々に新年が終わる、このあわただしさに比べると、年が明けてもクリスマスツリーを置いたまま、町のイルミネーションが消えないロシアのクリスマスも良いものです。

やや季節はずれの感じもしますが、クリスマスといえば、ロシアにはこんな物語があります。

「降誕祭前夜」 
Ночь перед Рождеством

原作はニコライ・ゴーゴリ。ゴーゴリはウクライナ生まれの作家で、故郷を舞台に『ディカーニカ近郊夜話』という連作短編集を書きました。「降誕祭前夜」はその短編の中の一つです。

ウクライナの小さな村。降誕祭間近の夜は、雪が積もっています。そこで悪魔が月を盗んでしまい、月光に照らされていた村は暗くなってしまいます。

これが物語の始まりです。続きはうまく書けませんが、魔女が出てきたり、髭を生やしたコサックが出てきたり、悪魔に乗って空を飛んでペテルブルグまで行ったりしたり、結婚したりします。幻想的で、愉快で、わくわくする面白い話です。

モスクワには人形劇場があるのですが、ここでもクリスマスシーズンのレパートリーに「生誕祭前夜」が入っています。今のロシアの子供たちにも好まれている小説です。

繰り返すように、物語の舞台はコサックが住むウクライナの村です。この国は、動乱が原因でにわかに世界中の関心を集めています。ではどんな文化を持った人たちなのかを知るという意味でも、このゴーゴリの物語は興味深いといえます。

コサックは、「チューブ(房毛)」という独特の髪型をしています。
コサックダンスです。


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You Tubeの公式ページにアニメがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=WfjXEesZ0NA


(文:市川透夫)

2016年1月1日金曜日

元旦。

明けましておめでとうございます。
今年もブログでロシアについていろいろ書いていこうと思います。

ちなみに、新年のあいさつはロシア語で、

С Новым годом!
ス ノーヴィム ゴーダム

といいます。

ちなみにもう過ぎてしまいましたが、年の暮れに「よいお年を!」と言う時は、

С наступающим Новым годом!
ス ナストゥパーユッシム ノーヴィム ゴーダム

です。

さて、ロシアでは新年とクリスマスがなかば一体化しているということはすでに書きました。
日本人は年賀状を書きますが、
ロシアでも、クリスマスとお正月を一緒にしたようなカードを友達に送るようです。

ためしにグーグルなどで、「новогодняя открытка」で画像検索してみると、いろいろ出ると思います。

(文:市川)