2015年6月30日火曜日

牛乳パックの猫

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『プロストクワーシノ村』シリーズ
1978(ソ連)
原作:E.ウスペンスキー、監督:V.ポポーフ
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私が初めてロシアに行ったとき、スーパーや食料品店でよくこんなパッケージを見かけた。


 「МОЛОКО マラコー」というのはロシア語で牛乳のこと。牛乳だけでなく、バターやカッテージチーズ、ケフィア、コンデンスミルク、その他の乳製品でもこの猫の絵がついている。この猫、特徴があって、おもしろい。日本でも、不二家のキャンデーに、ペコちゃんの絵がついているし、牛乳業者のオリジナルキャラクターなのかなぐらいに思っていた。
 けれども後で知るように、これはソビエト時代のアニメに登場するものであることが分かった。
 アニメシリーズのタイトルは、「プロストクワーシノ村」。

 アニメ「プロストクワーシノ村」の物語は、フョードル少年が、喋る猫に会うところから始まる。この猫のマトロースキンが実に変わったやつ。フョードル君がハムを載せたパンを食べているのを見て、「ハムのある側を下にして食べたほうがおいしい」と助言するのだ。フョードル君は猫にパンをごちそうしようということで、自分の家に連れていった。
 さて、そうるうとお母さんが許さない。お父さんは「まあまあ」というけれど、お母さんはヒステリーになって、「猫と私とどっちが大事なの?」と問い詰める始末。
 しかたないので、フョードル君は猫のマトロースキンと一緒に、田舎に移り住むことになった。住むことになるのは、プロストクワーシノ村
 都会っ子のフョードル君はこうして、プロストクワーシノ村で、マトロスキンと、新しく知り合った犬のシャーリクと一緒に楽しくくらすわけである。
 そうすると都会にいる両親は心配する。なにしろ、息子は出る時に「猫と一緒に家出します」と置手紙を残したっきり。しょうがないので、新聞に探し子の広告まで出した。「男の子が失踪、背の丈1m20cm。見つけた人には自転車の景品。」
 心配する両親、のんきに田舎で暮らすフョードル君たち。この二人をつなぐ役割になるのが、郵便屋のペーチキンさん。ペーチキンさんは何でも、子供が親なしで暮らすのはけしからんとかで、少年のもとにお説教しにくる。「都会でご両親が心配してる」なんて言って、例の新聞に載った、探し子の広告を見せる。
 あとでフョードル君はこのペーチキンさんが見つけたということで、お父さんとお母さんは自転車を贈呈した。男の子はどうするかというと、親と一緒に都会に帰る。猫も犬も、夏休みになったらまた村に遊びにおいでということで、いったんは別れることになった。

 以上が第1話「プロストクワーシノ村の三人」の梗概である。アニメの雰囲気はなんとものどかで、お母さんのヒステリーだとか、少年の失踪とかからイメージする物騒な感じはない。

 劇中で、しばしばこんな言葉が聞かれる。それは、猫のマトロスキンが、大喜びするときに発するあのセリフ:


 УРА! ウラー!

このウラーというのは、「やったー」「ばんざーい」みたいな、喜ぶときに口から出てくる言葉。
 もともと君主なんかにむかって、「皇帝陛下、万歳」というときの言い方ですが、もちろん普段の生活で、たとえばホットケーキがうまく焼けたときなんかみたいに、何か嬉しいことがあれば「ウラー!」という。マトロスキンも、夏休みにフョードル君がプロストクワシノ村に帰ってくると、「ウラー」と叫んで喜ぶわけです。
 そういえば、日本語の「万歳」という言葉も、「王様万歳」ということもあれば「バンザイ、大学に合格した」というようにも使うので、ロシア語のウラーと似たところがある。

 ところで、この物語の猫が、どうして乳製品のパッケージになったのか。すぐに思いつく理由は、プロストクワーシノという名前。プロストクワーシノというのは「プロストクワーシャ」から来た言葉。プロストクワーシャは、ヨーグルトのような食べ物で、私も食べた感じではヨーグルトとどう違うのかいまいちよく分からなかったけれども、とにかく乳製品の一種である。
 ロシアには、ケフィアはじめ、日本ではなかなか食べられない多種多様の乳製品がある。そのほとんどは、このプロストクワーシャのように、日本語でもどう訳せばいいのか分からないものばかり。本文の冒頭に書いた「カッテージチーズ」にしても、ロシア語での名称はトヴォーラクというもので、実はカッテージチーズには似ていても別のもの。
 さて、村の名前がプロストクワーシャなのは、アニメの中でこそ語られていないけれども、実はその名の通り、乳製品を製造する村なのかもしれない。なにしろ、このフョードル君やマトロースキン自身も、庭に牛を飼っていて、自家製の牛乳を飲んでいるのだ。それなら、このアニメも、牛乳のパッケージデザインのモチーフとして、ふさわしいことになる。
 ちなみに作品の中にあるプロストクワーシノという村は架空のものらしい。偶然か、「プロストクワーシノ」という同じ名前の村があるらしいが、作品とは関係ないとのこと。

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ソビエトのアニメは、アニメ配給会社ソユーズ・ムリトフィリムが、YouTubeで無料に公開している。
ほとんどの作品が10~20分ほどなので、少しの時間を見つければ気軽に楽しめる。

プロストクワーシノ全三篇→https://www.youtube.com/watch?v=pXD3txG2bVQ

第1話「プロストクワーシノ村の三人」Трое из Простоквашино
第2話「プロストクワーシノ村の夏休み」Каникулы в Простоквашино
第3話「プロストクワーシノ村の冬」Зима Простоквашино

原作は、チェブラーシカで有名なエドゥアルド・ウスペンスキーの小説。
猫のマトロースキンの声優を務めたオレーグ・タバコフは、ロシアでは有名な俳優。

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番外編
モスクワから南東に40kmほど離れたところにある、ラーメンスコエ市は、ソビエトアニメの愛好家には穴場スポット。街の数か所に、アニメをモチーフにした銅像がある。プロストクワーシノのモニュメントももちろんある。


 ラーメンスコエ市については、『路上のミュージアム~モスクワのモニュメントが秘めた物語』(群像社)という本に詳しく書かれています。
筆者:市川透夫

2015年6月21日日曜日

企画「*ロシア絵本館*」と団体「ぞうのあし」について

こんにちは。
ふとした思い付きで、ロシアの絵本を展示しようと考えました。
東京外国語大学の文化祭「外語祭」で、教室を一つ使って、来られた方にロシアの絵本を手にとって見ていただこう、という企画です。
このたび、企画名は「*ロシア絵本館*」です。はじめとおわりに*がついてますね。そうしたほうが目立つかなあと思ったので。
ちなみに私(市川)は、同大学でロシア語を勉強している4年生です。

企画のために「ぞうのあし」という団体を作りました。団体といっても5人くらいの小さいグループです。
ぞうのあしという名前は、とくに意味はありません。文化祭の実行委員会に団体名を申請しなければならなかったので、大急ぎで考えたものです。

いろいろあって教室の四分の一二分の一をお借りして、展示ができそうです。ひじょうにこじんまりした感じになるはずなので、小さいけど落ち着いた、隠れ家っぽい雰囲気が出るようにしたいです。

展示するのは、ロシアの絵本(ジャンルはおとぎ話を中心に考えています)、日本で出版されたロシアのお話です。

もし場所に余裕があれば、テレビでも置いて、ソ連のアニメを流しておこうかななんて考えてたんですが、今回はスペースの関係で難しそうです。できそうです。

なにぶん開催が11月とずいぶん先なので、
ブログでゆっくりとロシアのことについて喋っていこうかなと思います。

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場所:
東京外国語大学 研究講義棟 3階 317教室326教室
 (http://gaigosai.com/?page_id=12

日時:
2015年11月19日(木)~23日(月)
5日間にわたって行われる文化祭の期間中に実施します。

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