2019年8月31日土曜日

ロシアの民話『カワカマスの命令にしたがって』


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「カワカマスの命令にしたがって」
По щучьему велению
ロシアの民話
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ロシア民話の中で代表的な話の一つに、『カワカマスの命令にしたがって』というものがあります。

物語の主人公はエメーリャという若者で、非常になまけものです。冬になるといつも暖炉の上で寝ているわけです。

「暖炉の上で寝る」というのは状況が分かりづらいですが、ロシア民話ではときどき出てくる表現です。
ロシアの伝統家屋では、暖炉は壁に埋め込まれている形ではなく、大きな台のようになっています。
上には横になれるほど広いスペースがあり、非常に暖かいので、
一家のおじいさんなどが優先して座る特等席なのです。
(チェコのとある物語にも同様の暖炉が出てきました)

なので、その暖かい場所で寝てばかりいるエメーリャは非常になまけものといえます。

このエメーリャは、冬のある日、川に水をくみにいきます。
冬なので川は凍っていて、氷には一か所だけ魚釣りができる程度の小さな穴が開いているのですが、
そこから水をくもうとしたら、ぐうぜん魚のカワカマスを捕まえました。

大きなカマスなので、スープに入れて食べようと考えるエメーリャですが、
そのカマスはとつぜん人間のことばで喋ります。

「命は助けてください。命を助けるかわりに、魔法の言葉を教えます。
『カワカマスの命令にしたがって、私の命令にしたがって』
と唱えれば、どんな願いも叶うでしょう」

カマスの命は免じてやったエメーリャは、さっそく呪文をとなえます。
『カワカマスの命令にしたがって、私の命令にしたがって、
桶の水よ、ひとりでに歩いて家まで帰れ』

すると、水をくんだ重い桶からは足が生えて、持ち運ばなくとも、家へ帰っていくのでした。

このあとエメーリャは、カワカマスの呪文を使って、
例の暖炉ごと街を移動したりするのですが、いろいろあって、
最終的にはお姫様と結婚するところまでのぼりつめます。

なまけものの若者が、魔法ひとつでお姫様のお婿になるわけですから、
エメーリャは実は賢かったのでしょう。

この話は日本では中村喜和先生のロシア民話集に翻訳がある他には、小学館から出ている「なまけもののエメーリャ」(山中まさひこ文、ささめやゆき絵)で読むことが出来ます。ロシアでは誰でも知っている話です。
(市川透夫)