2015年8月17日月曜日

バーバ・ヤガーについて

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バーバ・ヤガー
Баба-Яга
 
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 ロシアのおとぎ話の中でも悪役の代表格、バーバ・ヤガー(ヤガーばあさん)。人間を食べてしまう鬼ばばあなので、向こうでは、「悪いことすると、バーバ・ヤガーに連れ去られますよ」なんて言って子供をしつけている家庭もあるとか。ちなみにうちの母は「ヤマンバが来るよ」といって脅していました。

 バーバ・ヤガーは、ロシアの森にすむ魔女です。日本人の魔女のイメージは、黒い服で帽子をかぶって、ホウキに載って空を飛ぶイメージがあります。いっぽう、ロシアの魔女は木の臼に乗って空を飛び、自分の飛んだ跡をホウキで掃いて消しています。こんな姿で、子供を連れ去らいにやってきます。あんまりイメージがわきづらいので、誰か絵にしてないかなーと思ったのですが、画家のヴィクトル・ヴァスネツォフのこんな作品がありました。

 
『バーバ・ヤガー』(1917年)

 確かに木の臼に乗って空を飛んでいます。ついでに女の子を連れさらっています。ただし、おばあさんというよりは、おじいさんに見える。

 では、この鬼ババアは、子供をさらって、自分の棲み家まで連れていくのですが、住んでいる家にも特徴があります。

 バーバ・ヤガーの家は、森の奥にある「ニワトリの脚がついた木の家(избушка на курьих ножках)」と言われています。田舎の丸太小屋に、そのままニワトリの脚が付いているわけです。脚が付いているということで、同じ場所をくるくる回ったり、動いたりします。奇想天外、あるいは、いまの感覚でいう「シュール」といったところでしょうか。

 
(撮影場所:ロシア連邦コストロマー市、木造建築博物館)

 ニワトリの脚がついた木の家を、再現したものです。森の奥に、こんな家を構えて怪しく暮らしているわけです。ちなみに、おとぎ話の中では、この家を囲む柵が、人の骨でできていたりして、非常におそろしいわけです。ただしニワトリの脚が付いているのがヒョウキンというか、あんまり怖すぎないというか。

 おとぎ話ということで、伝承のされ方にも地域差があるので、バーバ・ヤガーについて調べていると、これはなかなか一筋縄ではいかないなーと思いました。が、このロシアの魔女についての大まかなイメージは大体以上のようです。

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バーバ・ヤガーについて知ることができる絵本

『バーバ・ヤガー』 アーネスト・スモール著、ブレア・レント絵、こだまともこ訳
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BB%E3%83%A4%E3%82%AC%E3%83%BC-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%88-%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB/dp/4924938912
 
(筆者・市川)

2015年8月9日日曜日

ネコのワンワン

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『こねこのガフ』
Котёнок по имени Гав

グリゴリー・オステル

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ロシア語で、動物の鳴き声を書くとこうなります。

ネコ … мяу-мяу ミャウミャウ
イヌ … гав-гав ガフガフ
ウシ … му-му ムムー
ウマ、ロバ … иго-го イゴゴー
ヤギ、ヒツジ … беее べー
オンドリ … Ко-ко-ко! Кукареку! コココ!クカリクー!

 日本語と似ているのもあれば似ていないのもあるのが分かります。日本人には猫の鳴き声が「ニャー」と聞こえるのを、ロシア人は「ミャウ」だと思っているわけです。実際にはどっちが近いのでしょうか。

 あるいは、日本のネコは日本語で「ニャー」と鳴き、ロシアのネコはロシア語で「ミャウ」と鳴いているともいえるわけです。そうすると外国産のネコは日本に来た時、言葉が分からなくて困ったろうなあなんて考えるわけです。

 ちなみにロシア語ではこれに加えて、「猫がニャーと鳴く」というのを一つの単語で表す動詞(мяукать)や、「メエと鳴く」という意味の動詞(блеять)もあります。

 さらに言うと、動物の名前をロシア語で覚えるにしてもオスかメスかで形が違うし、動物が赤ちゃんならまた特別な言い方をします。たとえばネコであれば、オスネコはコート、メスネコはコーシカ、さらに仔猫のときはカチョーナク、という風に形が変わるわけです。ときどき、偶然道を歩いていたネコみたいに、性別が分からない場合がありますが、そのときは仕方ないので、メスのほうの形(コーシカ)を言うのがふつうです。

 こんな風に、動物についてだけで、いろいろ覚えることが多いのも、ロシア語は難しいといわれる理由の一つではないかと考えられます。

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 ところでロシアにはこんな本があります。

 「こねこのガフ」
 Котёнок по имени Гав

 ガフという名前の仔猫が、犬やネズミと大騒ぎを起こす話です。アニメもあります。

 ところで「ガフ」という仔猫の名前、上にあげた中でいうと、イヌの鳴き声(ガフガフ)とそっくり、というより、イヌの声そのもの。ネコなのに、イヌの鳴き声が名前になるなんて。これは、ネコに「ワンワン」という名前をつけるくらいひねくれた発想なのです。ですが、このひねくれた発想というのが、この本の、さらには児童文学作家オステルの大きな特徴であります。

 グリゴリー・オステルの作品はいろいろあって、近年は日本語にも翻訳されています。

 日本では児童向けの作品の一つにアンパンマンというのがあって、悪いことをするバイキンマンを、いい子の味方アンパンマンがやっつけるお話です。しかしオステルの作品はそれとは違って、どこかシニカルで、時にいたずらっ子の方が勝ってしまうようなところもあります。まともないい子であればネコにワンワンなんていう名前は付けないと思うのですが、あまり「これならこうする」という当たり前になってしまった「いい子の標準」を押し付けるよりも、そういう変な話の方が、子供にとっては面白いこともあります。

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ソビエトのアニメは、アニメ配給会社ソユーズ・ムリトフィリムが、YouTubeで無料に公開している。
ほとんどの作品が10~20分ほどなので、少しの時間を見つければ気軽に楽しめる。

'Котёнок по имени Гав', все серии мультика котика ГАВ
https://www.youtube.com/watch?v=CdzluBuo5DU
(筆者:市川)

2015年8月1日土曜日

3びきのくま

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『3びきのくま』
Три медведя

レフ・トルストイ
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 これはロシアの童話ではありません。
 ロシアの絵本を紹介するというブログで、北国らしいクマの登場する物語で、小説家のレフ・トルストイの名前まで出しておきながら、ロシアの童話ではないと断ってしまうのも変ですが、実際のところこれはイギリスの童話で、スラブ人の作品ではありません。
 
 もともとこれはイギリスの作品。トルストイは、これをロシア語で書き直したのです。内容はほとんど同じですが、主人公の女の子が「シルバー・ヘアーSilver-hair」という名前だったのを、ただの「女の子」という風にしたり、多少のアレンジがあります。こういうのは、翻訳というよりは「翻案」というふうに呼ばれます。
 
 トルストイは作家だけでなく社会活動家でもあり、農民の子供のために、学校も開いていたように、子供の教育には熱心でした。少年少女のために寓話や童話をたくさん書き、その中の一つにあったのが、この「3びきのくま」です。
 
 日本ではレフ・トルストイの手によるこの翻案が先に出版されたために、ロシアのお話として有名になったということです。
 
 ユーリー・ヴァスネツォーフのきれいな絵がついたこともあり、絵本は1962年の発行から今でも読まれています。ヴァスネツォーフは、日本でも絵本コレクターの中で人気の画家。作風は写実をだいぶ離れています。動物が丸っこく愛らしく描かれています。絵の中に、民俗風の模様をあしらった、デザイン化した部分もあって、見ていて楽しいです。

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『3びきのくま』 トルストイ作、ヴァスネツォフ絵、小笠原豊樹訳。福音館書店、1962年。
 
イギリス版はこちらで読むことができます。
『3びきのくま』 イギリス民話、いもとようこ文・絵。金の星社、2006年。
(筆者・市川透夫)