2016年10月23日日曜日

まだらのニワトリ



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『まだらのニワトリ』
"Курочка Ряба"
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おじいさんとおばあさんがいました。そして二人には、まだらのニワトリがいました。
ニワトリは卵を産みました。でもただの卵ではなく、金の卵です。

おじいさんが叩いても、卵は割れません。
おばあさんが叩いても、卵は割れません。

ところがネズミが走ってきて、しっぽを振ったら、卵は落ちて、割れてしまいました。
おじいさんもおばあさんも泣いていると、まだらのニワトリは言いました。
「おじいさんもおばあさんも泣かないで。今度は金の卵でなく、普通の卵を産みますよ。」

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これはロシアの民話で、絵本にしても数ページに満たない短い話です。
ところで、ソ連の児童文学作家マルシャークは、この話を元に別の物語を作りました。
題して、『まだらのニワトリと十羽のアヒルの子』です。

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きみは、おじいさんとおばあさんとまだらのニワトリのお話は知っているかな?
もし知っているなら、おじさんが、別の話を聞かせてあげましょう。

むかしむかし、別のおじいさんと別のおばあさんがいました。二人には、別のまだらのニワトリがいました。
ニワトリは卵を産みました。でも金の卵ではなく、ただの卵です。
半熟でも、固くもない、いちばん普通の、生卵です。

ネズミが走ってきて、しっぽを振ったら、卵は落ちて、割れてしまいました。
まだらのニワトリはえんえん泣いていました。
おばあさんはニワトリがかわいそうになり、鳥小屋にカゴを持って走ってきました。
カゴの中にあるのは、アヒルの卵。
ひとつではなく、まるまる10個。
「ニワトリや、アヒルの卵をあたためなさい。」

(以下略)

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やや長い話なので冒頭だけ引用しました。
このあと10羽のアヒルのヒナが生まれたニワトリは、一緒に散歩に出かけます。
アヒルという違う種類の鳥を、しかも10羽も世話するのは大変です。アヒルたちが池を泳いでいるのを、「溺れないかしら」と心配そうに見守るのです。
さて、みんなが池から上がると、とつぜん、ネコがやってきますが、
ニワトリは勇敢に立ち向かって追い返し、強いお母さんぶりを発揮して、この話は終わります。

サムイル・マルシャークが残した数々の作品は、ロシアでは昔から人気です。

マルシャークの多くの絵本では、ウラジーミル・レーベジェフという画家が絵を描いているのですが、この二人が作った絵本は、日本語にも翻訳されています。
代表的なのは『しずかなおはなし』(福音館書店)です。

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(参考:『まだらのニワトリ』ロシア語原文)
Жили-были дед да баба. И была у них Курочка Ряба.
Снесла курочка яичко, да не простое - золотое.

Дед бил - не разбил.
Баба била - не разбила.
А мышка бежала, хвостиком махнула, яичко упало и разбилось.
Плачет дед, плачет баба и говорит им Курочка Ряба:
- Не плачь, дед, не плачь, баба: снесу вам новое яичко не золотое, а простое!

(筆者:市川透夫)

2016年10月16日日曜日

黄金の秋

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黄金の秋
Золотая осень

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ロシアは寒い冬のイメージが先行してしまいますが、実は季節ごとの移り変わりが豊かです。

9月から11月まではロシアでは秋とされています。
秋になると、森が黄色く色づき、たいへんきれいです。
ロシアの詩人プーシキンは、これを「黄金の秋」と表現しました。

Японцы думают, что в России очень холодно и там одна зима. Но на самом деле в зависимости от времени года можно посмотреть, какой она бывает разной.
Сентябрь, октябрь и ноябрь - осенние месяцы. Осенью листья желтеют или краснеют, и выглядят очень красиво. Русский народный поэт Пушкин назвал это "золотой осенью".


秋になると、ロシア人は森の中へキノコ狩りに出かけます。
ロシア人はキノコ狩りが大好きです。私のロシアの友人の話では、みんな「気が狂ったように」採集するそうです。

Осенью русские люди идут в лес за грибами.
Они очень любят собирать грибы. Мой русский друг сказал, что они делают это "как сумасшедшие".


ロシアで市場に出ているキノコはあまり見慣れないものが多く、
名前をロシア語の辞書で調べても知らないものが多いです。

Сорта грибов, продающихся на русских рынках, для нас японцам не очень привычны.
Я посмотрел их названия в словаре, но не смог представить, какие они.




これからロシアでは寒さが厳しくなっていきます。

Скоро в России наступят суровые холода.

(文:市川、写真:A、モスクワで撮影)

2016年10月10日月曜日

ロシアの古都へ ~コストロマー~

ロシアを旅行するときの観光ルートに「黄金の環」というのがあり、ロシアの古い町が輪を描くように並んでいます。

前回はヤロスラブリをご紹介しましたが、今回はコストロマーについてです。
コストロマーは、ヴォルガ河畔にある歴史ある町です。
水運や商業で発展した町なので、おみやげ品も、船や市場をモチーフにしたものが多いです。

真冬にいったため、あたりは雪でおおわれ、気温はマイナス20度でしたが、だからこそ旅は印象的なものとなりました。

コストロマーはとても素敵な町なので、夫婦や恋人と行くにもうってつけです。

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ロシアの古都へ ~コストロマー~
В Кострому, древний русский город





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モスクワからコストロマーは北へ340キロ。汽車は夜行列車しか通っていませんでした。
夜12時くらいに出発し、到着は朝6時。


到着したときにはまだ暗く、お店はどこも閉まっていて、ホテルのチェックインもまだ先。しばらく駅の中でひと眠りすることにしました。

明けてきたので、駅からバスに乗って、街の中心部まで行きます。

町の中心「スサーニン広場」。
イワン・スサーニンは、現コストロマー州出身の農民ですが、
17世紀のポーランドのロシア襲撃の折に、
命をかけて国を守ったことから、ロシアの英雄となっています。

ふつうロシアの古い町といえば、クレムリン(お城の跡)がありますが、この町はクレムリンは見たところありません。残っていないのか、それとも無かったのか。
かわりに、町の中心に、二つの商業アーケードが、向かい合うように並んでいます。アーケードの敷地に入ると、にぎやかな市場です。
クリスマスが近かったため、あちこちのお店で、お菓子やプレゼントが売っていました。

アーチがいくつも並んだ、趣のある商業アーケード。
こういった昔ながらの市場が多いのも、
ロシアの魅力です。

これからホテルに向かいます。


さすが冬のロシア、ヴォルガ河が、凍ったまま雪で覆われています。
ふと、私がむかしロシア語の教科書で読んだ一文が頭に浮かびました。

Зимой Волга спит под снегом, а сначала весны до конца осени она живёт.
「冬、ヴォルガは雪の下で眠っているが、春の初めから秋の終わりまで、河は生きている」

河が雪の下で眠っているとはこういうことなのか、と初めて分かったのです。

そしてこれがホテルです。


このホテルはもともと、船の船着き場だったところですが、それを宿泊できるように作り直したところです。窓からはオーシャンビューならぬリバービューが見え、雰囲気は最高です。
ちなみに値段も一般的で、朝食付きなので、非常にオススメです。

これから観光です。
一番の名所、「イパーチエフスキー修道院」に向かいます。

路線バスに乗り、橋を渡って、ヴォルガ河の向こう岸へ行きます。

橋の上から、向こう岸のイパーチエフスキー修道院を望む。

中世ロシアの世界へ。


中には、聖堂や、僧房があり、ロシアの歴史と宗教を伝える展示があります。

金の糸で織った刺繍のようです。

外を出ると、もう真っ暗になっていました。
冬のロシアは、一日が非常に短く、午後5時にもなればもう真っ暗になってしまうのです。

都会のネオンになれていましたが、
この暗闇に入ると、ふと原始的な気持ちになり、
「中世のロシアも、夜はこれより暗かったんだなあ」と思いを馳せるわけです。

この日、もう一つ行きたい場所があったのです。それは、「木造建築博物館」。敷地の中に、木造建築が集まって、村のようになっている場所です。

暗くなって、もうとっくのとうに閉まっているのでしょうが、ダメ元で行ってみることに。

...やっぱり門が閉まっていました。

コストロマーへの滞在は二日、翌日の夕方には町を出なければならないので、そうすると明日のスケジュールはどうなるだろう、などと思案に暮れていました。

するとそこへ、ニャーと言いながら一匹のネコが近づいてきました。
おそらく博物館で飼っているネコなのでしょうが、夜の間、博物館を守っているのかもしれません。

ネコはまだ小さく、しかしとても人懐っこく、私へとすり寄ってきたのです。こんな寒いところで私のような旅人に寄ってくるネコが、なんだか可哀そうになってしまいました。

明日もまた来るからね~と約束して、とりあえず帰ることに。

朝まだき、ホテルからの眺め。ヴォルガ河は凍っている。

昨日は入れなかった木造建築博物館へ。


ロシア各地の木造建築が集められた、公園のようなところです。夏はさまざまなイベントをやっていて、家族連れで賑わうようですが、冬にはほとんど人影がなく、ときどき風吹が吹き、あたりは荒涼としています。


ロシアの民話に出てくる「ペチカ」という暖炉が見られ、農民の暮らしも分かります。
ロシアのフォークロアの世界を勉強するには、このような場所がうってつけです。

バーバ・ヤガーが住んでいる、「ニワトリの足がついた家」です。

さて、ひとしきり展示を見たところで、私は思わぬ再開を果たしました。


あのネコ!!!

またも私に近寄ってきて、ニャー、ニャーと、何かを話しています。
私のことを覚えてくれていたのでしょうか、それともただ人懐っこいのか...


建物に目をやると、けっこう仲間がいるみたいです。

再会したネコは頭をなでてやりました。旅の出会いは一期一会、次に会えるときはいつになることか...

この他に、コストロマーの生物博物館や、教会などをいろいろと見ましたが、何よりも印象に残ったのはこのネコでした。



というわけで一泊二日のコストロマー旅行は終わり、夕方、長距離バスに乗って、真冬の古都を離れました。
長距離バスは夜行列車よりも本数が多いので、時間帯によってはこちらもおすすめです。

(市川透夫)