2016年5月5日木曜日

カチューシャをかぶったエカテリーナ


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ロシア愛唱歌『カチューシャ』
Песня "Катюша"
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ロシアの有名な歌でカチューシャというのがあります。

〽りんごの花ほころび 川面に霞たち
君なき里にも 春はしのびよりぬ
君なき里にも 春はしのびよりぬ

日本では歌声喫茶という場所でよく歌われているようです。ロシアの歌としては日本で最も有名な歌ではないでしょうか。
これはもともと民謡ではなく、作曲者も作詞者もはっきりしているソビエトの歌謡曲なのですが、あまりに広く普及したがために、ほとんど民謡化しています。

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ここでタイトルになっている「カチューシャ」というのは、頭につける髪留めのことではなく、女性の名前。
正式にはエカテリーナといいます。カチューシャは、その短い形です。

さてこの『カチューシャ』という歌は、戦場で、一人の兵士が恋人のカチューシャを思い出している、という内容。戦争が背景にある曲です。
ロシアでは、5月9日の戦勝記念日になると必ず歌われます。

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ところで、頭に留めるあの道具を「カチューシャ」というのは、どこから来たのでしょう。
ロシア語ではこの道具を「アバドーク(ободок)」というので、ロシア語の単語が日本に入ったわけでもなさそうです。

では、ここである有力な説を紹介しようと思います。あくまで一つの説に過ぎないことに注意しましょう。

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ロシアの文豪・19世紀文学の巨塔の一人、レフ・トルストイは、老年に『復活』という小説を書きました。
作品は発表後にすぐさま世界各地で翻訳され、映画が作られ、演劇にもなりました。
この物語のヒロインはエカテリーナ・マースロワ。もうお分かりの通り、愛称はカチューシャです。

さて、この小説の中でカチューシャが頭に例の髪留めをしたのか?というとそうではありません。小説にはそのような描写は無いのです。

ですが、トルストイの作がこの日本で、演劇として上演されたときのこと。ヒロイン役の女優が、頭にかぶりものをつけていました。当時は珍しかったけど、なんだかかわいくておしゃれなその飾りを、日本人はいつのまにかヒロインの名前にちなんでカチューシャと呼ぶようになったとさ。

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もしこの説が正しければ、髪留めのカチューシャはいずれにしてもロシアと深いかかわりがあるということが分かります。

(おまけ)
実は、日本語の中にはロシア語からきた単語はけっこうあります。

イクラ
(石油の)コンビナート
インテリ
アジト
(仕事などの)ノルマ
ペチカ
(文:市川透夫)