2016年6月20日月曜日

小説『紅い帆』(A・グリン)


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『紅い帆』
原作 A・グリン
А. Грин "Алые паруса"
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 ロシアで二番目の都市サンクト・ペテルブルグでは、毎年6月に非常に大きなお祭りが開かれます。

 それは「赤い帆」と呼ばれる催しです。「宮殿広場」(エルミタージュ美術館の前の広場)でコンサートをしたり、花火を打ち上げたりします。メイン・イベントとして、街を流れるネヴァ川には、イベントの名前にもなっている「赤い帆」をつけた船が浮かべられます。私はこのお祭りには行ったことがないのですが、調べてみる限りかなり大規模なイベントみたいです。

 これは中学・高校の卒業生を記念するもので、ソ連時代、サンクト・ペテルブルグ(当時はレニングラード)で始まって以来、いまでも続いています。ロシアでは学年暦が9月始まり・5月終わりなので、卒業式が終わって間もないこの時期に行うわけです。

 私がロシアに留学していた頃はずっとモスクワにいたので、こんなお祭りがあるとは少しも知らなかったのですが、このお祭りのモチーフである『赤い帆』については書くことができます。

 『紅い帆』Алые паруса)というのは、ロシアの作家アレクサンドル・グリンの小説です。

 舞台は海辺にある町。ヒロインは、アソールという少女。このアソールは、想像力豊かで、個性的であるがために、街の人々からは変わり者扱いされています。しかし、アソールは子供のころからの夢を忘れないで、前向きに生きていました。

 その夢とは、子供だったアソールが、一人の老人から聞いた物語でした。紅い帆を張った船が、この海辺の町にやってきます。その船には王子様が乗っていて、アソールを連れて永遠の旅へと旅立つのです。

 果たして紅い帆を付けた船が、アソールの町にやってくるのはいつなのか。どんな運命が少女を待っているかというのは、小説を読んでのお楽しみです。

 ロシアでは有名な話で、子供時代に読んだことがあるという人は多いようです。

 この小説は、実は日本では原卓也先生が『深紅の帆』というタイトルで翻訳しています。原卓也先生というと、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を翻訳されてますが、こんな童話も訳してたんだなあ、という感想。

 しかし現在、原卓也訳『深紅の帆』は絶版になっているようです。ネット通販でも若干の在庫が残っているだけという状況です。Amazonでは3冊ぐらいありましたが、その内1冊は先日私が注文しちゃったので、残り2冊ですね。

 せっかく面白い物語なのに残念...ということで、ここだけの話、私(筆者)は、ほそぼそとこの小説を翻訳しています。

 誰か身近な人に読ませる、でもいいのですが、もしできたら売り物にしたいです...。そうすると権利とか法律の問題とかいろいろ調べなきゃいけなくて、非常に面倒なのです。作者グリンは何十年も前に没しており、翻訳権上の問題もないはずなので、たぶん大丈夫かな、とは思いますが。

 ここまであえて「赤い帆」といわずい帆」と書いたのも、私が翻訳するときあえてこの字を選んだためです。

 ということで、いつになるか分かりませんが『紅い帆』をいずれお目にかけたいと思います。

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ちなみにYou tubeでは、『紅い帆』の映画が見られます。
https://www.youtube.com/watch?v=5YzwW4hxrx4

(市川)